
日本酒の魅力は食事だけにあらず。神事と伝統行事で担う重要な役割を解説します。

日本の名を関するお酒である「日本酒」。
伝統的な製法で作られ、古来から多くの日本人に愛されてきました。
そんな日本酒ですが、食事以外に神事や伝統行事で貴重な役割を担ってきたことはご存知でしょうか?
日本酒が担った役割は、日本が誇る伝統文化の発展には欠かせないものだったと考えられます。
この記事では日本酒の特徴と、長い歴史で担った重要な役割について解説します。
そもそも、日本酒とは?

まず、日本酒の特徴と製法を簡単に紹介します。
日本酒の特徴
お米と米麹、水で作られた日本伝統のお酒です。
地理的表示では、以下の条件をすべて満たすものが「日本酒」と名乗れる権利を保有しています。
- 原材料に日本で生産された(国産の)米を使用している
- お酒の製造地は日本である
※お酒の製造地が日本であっても、原材料の米が外国産のものは不可
ちなみに税法では「清酒」に分類され、製法や原材料によってさらに細かく種類が分かれています。
伝統的な独自の製法で作り出されている
日本酒は「並行複発酵」という古来から受け継がれる独自製法が特徴です。
これにより雑菌の発生を抑えながらまろやかな旨味を引き出せるといわれています。
日本酒のおいしさの秘密は「酒米」

実は日本酒で使われるお米は、食事で使われるものとは若干種類が異なります。
原料のお米は「酒米」と呼ばれ、「心白」(しんぱく)と呼ばれる部分があるのが特徴です。
この心白が麹を取り込み、日本酒の旨味を生み出してくれます。
和食の調理・喫食にも欠かせない

ちなみに日本酒はただ飲むだけでなく、調味料としても活躍します。
日本酒に含まれるアルコールやアミノ酸は、以下の効果で使うことができます。
- 肉や魚の臭み消し
- 素材の旨味を引き出す
- 食材を柔らかくする
日本酒と似た調味料に「料理酒」があります。
これは米と米麹に、水あめや食塩を加えた調味料です。
塩分が含まれているため、名前に酒とついていますが飲むことはできません。
料理酒はスーパーで手軽に買える調味料で、日本酒同様食材の臭み消しにも使えます。
一方で入れすぎるとしょっぱくなりすぎてしまうため、繊細な味の和食を作る時は日本酒を活用するのが良いでしょう。
そして、和食を食べる際にも日本酒を嗜むのがおすすめです。
日本酒と一緒に食べたいおすすめの和食をご紹介しましょう。
- 白身魚の刺身
- 天ぷら
- ほうれん草のおひたし
- 冷しゃぶ
(豚肉を茹でた後、水で〆て野菜と一緒に食べる) - きゅうりやタコの酢の物
(塩揉みしたきゅうりやタコを、酢と少量の砂糖であえた料理)
これらのあっさりとした味わいのメニューは、日本酒の上品な甘さと相性抜群です。
機会があればぜひお試しください。
日本酒の特性、製法については
こちらの記事でも詳しく解説しています。
あわせてご覧ください。
日本酒が担った重要な役割

次に、日本酒が日本の暮らしで担ってきた役割を見ていきましょう。
今回は神様が関わる「神事」と、私たちの暮らしに関わる「伝統行事」の2点に分けてご紹介します。
① 神事

日本独自の宗教である「神道」と日本酒は、古来から密接なつながりがあります。
特に神様のお供えものである「お神酒」(おみき)として、長年神社にお供えされてきました。
ここでは神道にまつわる神事と、日本酒の関係性についてお伝えします。
「神事」の役割を担った理由とは?
かつてお米は非常に貴重で価値の高いものでした。
現代のように気象予測が発展していなかった古来では、安定した生産が保証できていなかったからです。
さらに、日本酒を作るのにも多くの工程を要します。
貴重なお米に特別な手間をかけて造るお酒は、神様に捧げる最も贅沢なごちそうとされました。
そして、古来から日本では神道と稲作をはじめとした農耕文化の2つが暮らしの基礎となりました。
そのため、自然の恩恵から得られる豊作への祈りや感謝が神事や伝統文化を行う目的として残っています。
お供えされる日本酒の種類
神社では古来より、以下4種類の日本酒をお供えするのが正式な作法と決められています。
- 白酒(しろき)
蒸した米と米麹水を原料にして造られる白く濁ったお酒。
別名「どぶろく」とも。 - 黒酒(くろき)
白酒に植物の枝や葉を焼いた灰を混ぜたもの。
灰色(黒褐色)の色が特徴。 - 醴酒(れいしゅ)
蒸し米に米麹を加えて一晩寝かせたお酒。
アルコール度数が低く、甘酒のような味わいがする。
別名は「一夜酒」(ひとよざけ)。 - 清酒(せいしゅ)
現代でいう一般的な日本酒を指す。
最近では清酒のみをお供えすることが多い。
先述の通り、最近では「清酒」のみをお供えする作法も認められています。
それぞれの神社によって取り扱いが異なるため、詳しい作法は事前に確認しておきましょう。
コミュニケーションのきっかけとなる日本酒と「直会」

お供えされた日本酒には、「人間と神様がお酒を酌み交わすことで絆を深める役割」があります。
神事の後に参列者で分け合うことで、神様のご加護を授かると考えられました。
また、冠婚葬祭や引越し、ビジネスの挨拶など、人と人をつなぐ潤滑油として日本酒が欠かせません。
その由来は「直会」(なおらい)が挙げられるでしょう。
「直会」とは?
神事の最後には、お供えしたお神酒を下げ、人間と神様が「同じ食事を共にする」という儀礼が行われます。
これが「直会」であり、現在のお祝いの席で行われる「乾杯」の起源ともいわれています。
「乾杯」は世界共通の食事の挨拶です。
その上で日本の場合は「神様と同じ食事をみんなでいただく」という神道由来の考え方が深く根付いています。
この考え方は「神人共食」(しんじんきょうしょく)と呼ばれます。
神様と人間の暮らしが“地続き”でつながっていると捉える、日本独自の文化的な面白さがここにも表れていますね。
また、アルコールがもたらす心地よい高揚感は、楽しい時間には欠かせません。
その心地よさがもたらすコミュニケーションは、さらに人々を深い絆で結びつけました。
宴会とご馳走、楽しいコミュニケーションで使われる日本酒は、古来から集団の「調和」を重んじる日本人の精神との相性が抜群です。
「邪気払い」にも使える日本酒

神聖なものとして扱われた日本酒は、「邪気払い」としての側面も担います。
例えば日本酒と塩を混ぜたお湯に浸かることで、体に憑いた厄を落とせると考えられています。
また、筆者の知人が車を買い換えた際に車屋で日本酒をタイヤにかけてもらったと話してくれました。
これは事故を防いで安全に車を走らせるための祈願とされています。
車屋によっては安全祈願として日本酒をもらえるときがありますが、運転前にお酒を飲むのは絶対にやめましょう。
加えて、高温の場所に日本酒を置いておくと品質の劣化を起こす恐れがあります。
車の中は高温になる場合があるため、真夏に移動する際は暑い場所におかないよう心がけてくださいね。
土地神様を鎮める「地鎮祭」(じちんさい)

右から2番目のお供え物が「奉納酒」である。
建物を作る際に最初に行う神事です。
土地神様にご挨拶を行い、工事の無事を祈ることが目的だといわれています。
工事の際に土を掘ったり木を切る行為は、古くから「大地(自然)を傷つける行為」とみなされました。
つまり、工事を行うことでそこに住まう土地神様や自然神を刺激したり怒らせる行為と考えられたのです。
日本でも時折無茶な工事を行ったことで、神様を怒らせ原因不明の事故が起きたこともあるといわれています。
そこで、工事を行う前に土地神様にご挨拶を行い工事の赦しを得ることが必要だと考えられました。
地鎮祭に行う際に、「奉納酒」と呼ばれる2本の日本酒をお供えします。
日本酒の名前である「銘柄」は「松竹梅」「白鶴」など縁起の良いモチーフを選びましょう。
儀式の最中に奉納酒を土地の四方にかけることで、土地を清めて神様をお迎えします。
日本神話でも見られる日本酒の役割
奈良時代に確立した日本最古の歴史書『古事記』でも、日本酒が大活躍します。
太陽神天照大神の弟であるスサノオノミコトは、怪物ヤマタノオロチを退治することになりました。
退治をする際、「八塩折之酒」(やしおりのさけ)というお酒が登場します。
たっぷりのお酒をヤマタノオロチに飲ませ、酔っ払ったところを退治するという作戦が計画されました。
この「八塩折之酒」が、文献上における日本酒の起源と考えられています。
日本神話については
こちらの記事で詳しく解説中です。
あわせてご覧ください。
② 伝統行事

私たちの暮らしに古来から受け継がれてきた伝統行事にも、日本酒は欠かせません。
どのような伝統行事で日本酒が活用されてきたか見ていきましょう。
鏡開き
日本酒が入っている樽を、杵(きね)を振り下ろして割る伝統行事です。
主に結婚式で行われた伝統行事ですが、最近では施設の開業や映画の封切りイベントでも行われることがあります。
樽を割って開ける作法は、「運を開く」として縁起が良いと考えられました。
ちなみに似たような表現として、漫画『ONE PIECE』でも樽を足で割るシーンが出てきます。
グランドラインへ出発する際に「進水式」としてそれぞれの夢を宣言する様子は、現実の「鏡開き」の目的や手法と重なりますね。
三々九度 (さんさんくど)

日本の伝統的な結婚式である「神前式」で行われる儀式です。
「夫婦の永遠の契りを結び、生涯苦楽を共にする」という意味が込められています。
戦国時代をモチーフにした大河ドラマでも出てくることが多いので、一度は目にしたことがある人が多いでしょう。
三々九度は、大・中・小3つの盃を使って新郎新婦が御神酒を酌み交わします。
具体的には以下の流れで執り行われます。
- 小盃(しょうはい):
「一の盃」として新郎が先に飲み、次に新婦が飲みます。 - 中盃(ちゅうはい):
「二の盃」として新婦が飲み、次に新郎が飲みます。
先ほどの「一の盃」とは順番が逆になります。 - 大盃(だいはい):
最後に「三の盃」として、新郎が飲んだ後に新婦が飲みます。
順番は「一の盃」と同じです。
「三々九度」の名付けの由来は、3杯の盃と9回飲む動きが由来です。
それぞれの盃につき3回に分けてお酒を口に運びますが、1,2回目は飲むフリをします。
最後の3杯目で口に含むことで、1杯あたり3回「飲む」と捉えられました。
ちなみにお酒が全く飲めない場合でもご安心を。
3杯目で飲む際は口をつけるだけでも問題ありません。
お屠蘇(おとそ)

無病息災(むびょうそくさい)を願う目的で、元日(1月1日)に飲むお酒です。
お屠蘇は現在では日本酒が使われます。
しかし本来は、日本酒やみりんに5〜10種類の生薬を配合した「屠蘇散」(とそさん)を漬け込んだものを指します。
ドラッグストアやスーパーでは年末に屠蘇散が売られているところがあります。
大晦日(12月31日)に仕込むと一晩でお屠蘇が出来上がるので、興味がある方はぜひお試しください。
お屠蘇の飲み方は以下の作法が決められています。
まず、元日の朝に家族が集まり、挨拶を済ませた後に全員が東の方角を向いてお屠蘇を飲みます。
順番は地域によって差があれど、年少者から最初に飲んで行くのが通例です。
この理由は以下2つの説があると言われています。
- 元気を分けてもらう説
若い人が持つ元気なエネルギーが溶け込んだお屠蘇を飲むことで、年配の人も1年元気に過ごせると考えられた - 毒味の名残説
万が一毒が盛られていたとしても、一家の当主を守ることができる
ちなみに厄年の人は、年齢に関係なく最後に飲みます。
おせち料理はお屠蘇を飲んだ後にいただきましょう。
お屠蘇を飲む際のルール
お屠蘇はお酒であることから、日本の法令では20歳未満は飲めないルールとなっています。
そのためお子さんはお屠蘇を飲まないよう注意しましょう。
「飲むふり」や家族の誰かが1人飲むだけでも、お屠蘇のご利益があると考えられています。
なので、家族全員が飲めなくてもご利益を授かれる点はご安心ください。
また、お酒を飲んだ後に車を運転する「飲酒運転」は大変危険です。
車の運転を予定している方も、お屠蘇を飲むのは必ず控えてください。
まとめ:
日本酒は自然の恵みと神道、伝統行事と関わりがすごく深かった

いかがだったでしょうか。
日本酒はただのお酒だけでなく、神道で行う神事や歴史的な伝統行事でも深い関わりを持っています。
さらに背景を紐解くと、日本酒の材料となる稲作と自然の恵みへの感謝も深くつながっていました。
神道は「あらゆる自然や物にも神様が宿っている」という理念があるため、その点も関係が深いですね。
筆者の親戚から「神道でお供えしたお神酒は、その後直会で家族や地域の人と一緒に味わうことが多い」という話を聞きました。
この文化は現代の日本でも脈々と受け継がれています。
ぜひ日本酒を飲む機会があったら、味に加えて日本の歴史や文化にも思いを馳せていただけると嬉しいです。















