
国や天皇家の成り立ちが分かる。日本神話の世界を覗いてみよう。

世界各地を見渡すと、その土地独自の神話が存在しています。
各々の文化と密接に関わった神話は、いつの時代も私たち読み手の心をときめかせるロマンが満載です。
では、日本にはどのような神話が存在しているのでしょうか。
古来から伝わる神話を読み解くと、国や天皇家の成り立ちまでが分かる壮大な物語が見えてきました。
この記事では、日本神話の世界や魅力を歴史と絡めながらお伝えします。
日本に伝わる神話

まず、日本に伝わる神話は主に以下の文献で確認できます。
① 古事記
「天皇家の歴史」について、物語形式で記した書物です。
日本語の音に漢字の内容を当てた「万葉仮名」を使って書かれました。
神話の内容が多く、特に出雲神話が話題の中心となっています。
後述の『日本書紀』と比べると、一時期はスポットライトが当たらない時期がありました。
江戸時代に本居宣長(もとおり のりなが)が神話の重要性と歴史的価値を説いたことから、注目されるようになった経緯があります。
② 日本書紀
「日本という国の成り立ち」を公的な立場で記録した歴史書です。
漢語と中国の正史を採用していることから、国内外に向けて日本の国の成り立ちと歴史を紹介していると考えられました。
そのため、『古事記』と比べると外交や政策などの公的かつ事実に基づいた内容が多く記載されています。
また、本文とは異なる説も併記していることから、各地に伝わる伝承を客観的に伝える姿勢が見受けられるのも特徴です。
古事記、日本書紀ともに第40代の天皇である天武天皇の命によって編纂されました。
この2つの書物は「記紀」として、神話や日本の成り立ちを語る重要な資料となっています。
日本神話の登場人物
日本神話には多くの神々が登場します。
ここでは代表的な神様を、それぞれの場面にあわせてご紹介します。
おことわり
掲載した画像はそれぞれの神が司るものをイメージ画像として配置しています。
あらかじめご了承ください。
主な舞台
日本神話において重要な場所となるのが「高天原」(たかまがはら)と呼ばれる場所です。
神々が住まう天にあり、日本神話において神聖な場所とされてきました。
この他にも私たち人間が住まう地上である「葦原中国」(あしわらのなかつくに)、死者が住まう「黄泉の国」が日本神話の舞台とされています。
① 最初の神の誕生と国生み

日本神話において最初に生まれた神は「天之御中主神」(アメノミナカヌシノカミ)です。
性別がなく姿を隠していますが、宇宙の根源として高天原の中心に発生しました。
その後「別天つ神」(ことあまつかみ)と呼ばれる最初の五柱の神が誕生します。
別天つ神の誕生後、国生みを行うイザナギとイザナミが発生しました。
イザナギ、イザナミ
日本最古の夫婦神。
2人が始祖となり、多くの神々と国土を生み出しました。
「国生み」の伝説

イザナギとイザナミはある日、高天原の神々からある命令を受けます。
それは「まだ固まっていない泥の海をかき固めて、国を生み出せ」というものでした。
2人は「天沼矛」(あめのぬぼこ)と呼ばれる宝石がついた矛を、天の浮橋から下ろします。
天沼矛で海水をかき混ぜ引き上げると、塩が積もり「オノゴロ島」が出来上がりました。
オノゴロ島の場所は諸説ありますが、現在の兵庫県淡路島周辺が最有力であるといわれています。
イザナギとイザナミはオノゴロ島に降り立ち、結婚して夫婦となりました。
その後2人は「大八島国」(おおやしまぐに)と呼ばれる、現代の日本列島を生み出します。
国生みで生まれた島
※離島は()内に所属する都道府県を明記します。
- 淡路島 (兵庫県)
- 四国
- 隠岐島 (島根県)
- 九州
- 壱岐 (長崎県)
- 対馬 (長崎県)
- 佐渡 (新潟県)
- 本州
2人が結婚して日本列島を生んだ伝説を「国生み」と呼びます。
イザナギとイザナミは黄泉の国へ行く
国生みを行った後、イザナギとイザナミは自然を司る八百万の神々を生み出します。
しかし、火の神であるカグツチを産んだイザナミは出産時の火傷が原因で亡くなってしまいました。
愛するイザナミを失ったイザナギは、死者が住まうとされる「黄泉の国」へと向かいます。
黄泉の国からの脱出を説得するイザナギに対して、イザナミは「すぐに一緒に戻ることはできない」と答えました。
その理由は、イザナミが黄泉の国の食べ物を口にしてしまったからです。
イザナミは神々に相談することと、答えが出るまでは夫であるイザナギに自分の姿を見ないようお願いしました。
しかし、イザナギは待ちきれず愛する妻の姿を目にしてしまいます。
そこには変わり果てた妻イザナミの姿がありました。
恐怖のあまり自身の前から逃げ出したイザナギに激怒したイザナミは、異形の軍団をけしかけます。
なんとか逃げ出したイザナギは黄泉の国と現世の境目である「黄泉比良坂」を巨大な岩で塞ぎました。
イザナミは怒りのままに「毎日地上の人間を1,000人殺してやる」とイザナギに告げます。
それに対してイザナギは「ならば自分は毎日1,500人の人間が生まれるようにしよう」と返したのでした。
これにより人間は生と死が課せられたといわれています。
② 三貴子

イザナギが黄泉の国から戻って禊をした際、3人の兄弟神が生まれました。
彼らを「三貴子」と呼びます。
この章では、三貴子についてご紹介しましょう。
天照大神 (アマテラスオオミカミ)

イザナギの左目から生まれた太陽神で、三貴子の長子です。
八百万の神の最頂点であり、天皇家の祖だと考えられています。
女性の姿をした神であることから、大正時代に女性の参政権を求めた平塚らいてうは「原始女性は太陽であった」と書き記しています。
世界に光が消えた天岩戸伝説
三貴子の1人で弟にあたるスサノオが大暴れしたことに腹を立てた天照大神は、天岩戸と呼ばれる岩場に隠れてしまいます。
太陽神がお隠れになったことで、地上はたちまち暗闇に覆われました。
暗闇に覆われた世界では、災いも多く起きたようです。
困った神々は天照大神を外におびき寄せる作戦を、知恵の神オモイカネを中心にして考えます。
それは「外の騒ぎで天照大神の気を惹き、鏡の反射を活用して隙を作る」事でした。
アメノウズメが舞を踊り、仲間の神々が賑やかに騒ぐ様子を天照大神は不思議に思います。
わずかに岩戸を開けたその時、自らの光輝く姿が用意した鏡に当たって反射しました。
驚いた隙に岩戸をこじ開けることで、無事天照大神を外に連れ出すことに成功しました。
天照大神が外に出たことで、地上はまた太陽の光が昇ったといわれています。
他の登場人物
- オモイカネ
天照大神が岩戸に隠れた際、外に出す作戦を考えた知恵の神。
彼女の孫であるニニギノミコトが地上に降り立つ際もサポートした重要な神様である。 - アメノウズメ
オモイカネが発案した作戦で舞を踊った女神。
芸能の女神として、多くの芸能に関わる人々から篤い信仰を受けている。
後述するサルタヒコの妻。
三種の神器との関連性
天岩戸伝説から2点、弟であるスサノオから献上された剣1点が三種の神器の由来とされています。
三種の神器の構成は以下の通りです。
- 八咫鏡(やたのかがみ)
天照大神を連れ出す際に使った鏡。 - 草薙剣(くさなぎのつるぎ)
スサノオがヤマタノオロチを退治した際に生まれた剣。天照大神に献上された。 - 八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)
天照大神を連れ出す儀式の際に、八咫鏡と一緒に使われた勾玉。
三種の神器についてはこちらの記事で
詳しく解説しています。
あわせてご覧ください。
月読命 (ツクヨミノミコト)

月と夜を司る神で、イザナギが禊で右目を洗った際に生まれました。
性別は男性または女性どちらの伝承もある、神秘的な存在です。
月の神秘と暦の関係性
天照大神や後述のスサノオと比べると、月読の神話はあまり残っていません。
しかし、月を司る神であることから、暦や農耕、占いの神として古くから崇拝されていたようです。
暦については、古来の日本では月の満ち欠けをもとにした「太陰暦」が採用されていたのが由来です。
太陰暦や月の満ち欠けは、農耕や漁業のスケジュールを決めるのに重要な役割を果たしていました。
月と太陰暦についてはこちらの記事で
詳しく解説しています。
あわせてご覧ください。
スサノオノミコト

三貴子の末子で、暴風と海を司る男性神です。
暴れん坊であったことから、度々姉の天照大神の怒りを買いました。
一方、後述するヤマタノオロチ伝説では正義感が強い側面を見せています。
ヤマタノオロチ退治伝説
度重なる乱行に怒った天照大神は、ついにスサノオを高天原から追放してしまいます。
地上を渡り歩いていた際、クシナダヒメ一家と出会います。
彼女には姉妹がいましたが、尾と頭が8本ある怪物ヤマタノオロチの生贄として捧げられていました。
末妹であったクシナダヒメが生贄となり泣いていたところを、スサノオは彼女に一目惚れします。
ヤマタノオロチを退治することと、そのお礼としてクシナダヒメとの結婚を提案したのでした。
その後ヤマタノオロチ退治が成功したことで、2人は夫婦となりました。
三種の神器となった剣
ヤマタノオロチを退治、そこからアメノムラクモノツルギが生まれます。
後に草薙剣として、三種の神器となりました。
※壇ノ浦の戦いにて水没した説もあり、現在は別の剣を形代(レプリカ)として草薙剣の役割を果たしています。
他の登場人物
- クシナダヒメ
後にスサノオと結婚した女神。
ヤマタノオロチ退治時に櫛に変身したことから、髪に櫛を差す巫女の原型とも捉えられた。
また、漢字では「奇稲田姫」と書くことから、田の神に仕える処女神であるとも考えられている。 - ヤマタノオロチ
頭と尾が8本ある蛇のような怪物。
スサノオに退治され、切り裂いた体からは剣が出てきた。
暴れん坊だけではない魅力
スサノオは正義感と知性にあふれた側面も、魅力として挙げられます。
例えば妻と詠んだ以下の和歌は、日本最古のものであるといわれています。
八雲立つ 出雲八重垣(いずもやえがき) 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を
(現代語訳:
盛んに沸き起こる雲が八重の垣をめぐらしてくれる。新妻を守るために八重垣をめぐらすことよ。
あの素晴らしい八重垣よ。)
さらに、ヤマタノオロチを退治する際には策略を巡らせて退治しました。
まず、クシナダヒメの身の安全を守るために櫛に変身させて自身の懐に入れます。
次に、8つの桶に強いお酒を用意してヤマタノオロチを酔わせて眠らせる作戦を実行しました。
これらの作戦が功を奏し、無事ヤマタノオロチを退治できたのです。
これらのエピソードから、スサノオは武の神・厄払いの神として現代でも信仰されています。
③ 地上への降臨

天照大神の孫であるニニギノミコトが地上(葦原中国)に降り立ちます。
これを「天孫降臨伝承」(てんそんこうりんでんしょう)といいます。
ニニギノミコト

天照大神の孫かつ、初代天皇である神武天皇の曽祖父にあたる神です。
当時荒れていた地上(葦原中国)を治めるよう命じられ、高千穂(現在の宮崎県)に降臨しました。
地上に降りる際、三種の神器を祖母である天照大神から持たされています。
これらの系図から、皇族の祖として考えられてきました。
高千穂に降臨した際に稲作をもたらしたことから、五穀豊穣や殖産興業の神様としても祀られています。
他の登場人物
- サルタヒコ
ニニギノミコトの天孫降臨の際に、道案内を買って出た神。
天岩戸伝説で舞を踊ったアメノウズメの夫としても有名。
一説では天狗の祖としても考えられている。
人間の寿命はニニギノミコトも関係していた?
先ほどイザナギとイザナミが黄泉の国でのやり取りによって、人間に寿命が与えられたとお伝えしました。
しかし、実はもう1つの説としてニニギノミコトも寿命に影響を与えた説があります。
それは「ニニギノミコト」の結婚エピソードです。
姉妹の1人と結婚したい
ニニギノミコトはある日浜辺で美しい女性と出会います。
彼女に結婚を申し込むと、父の許しを得ないといけないと答えられました。
後日彼女の父であるオオヤマツミに結婚を申し込むと、ある条件を言い渡されます。
それは、姉妹2人を一緒に妻にすることでした。
姉妹の1人は浜辺で出会った美しいコノハナサクヤヒメでした。
しかし、もう1人はイワナガヒメ。
容姿があまり整っていないイワナガヒメとの結婚についてだけは、ニニギノミコトは納得できません。
その後ニニギノミコトは、美しい妹であるコノハナサクヤヒメのみを妻に迎えます。
一方で、結婚のお祝いの品と一緒に来た姉のイワナガヒメを送り返してしまうのでした。
姉妹2人と結婚させたかった真相
さて、オオヤマツミはなぜ2人の姉妹を一緒に結婚させたかったのでしょうか。
その理由は、2人の女神が持つ特性にありました。
コノハナサクヤヒメは花が咲くように家の繁栄を司る特性を持っていました。
そして、イワナガヒメは永遠の命を生きられる特性を持っていたようです。
そのため子孫である私たち人間は、限りある寿命の中で生きる宿命を与えられたのでした。
他の登場人物
- コノハナサクヤヒメ
桜のように美しいと称される女神。ニニギノミコトと結婚した。
彼との子を証明するために火の中で我が子を産んだ芯の強い側面もある。 - イワナガヒメ
コノハナサクヤヒメの姉。
ニニギノミコトの結婚は見送られたが、岩のように力強く永遠の命を生きられる特性を持っていた。
そのため、健康長寿にご利益があると考えられている。 - オオヤマツミ
両親は国生みを行ったイザナギとイザナミ。
山の神として生まれたが、娘の結婚の際にお酒を振る舞ったことから酒造の神としても崇められている。
④ 自然を司る神様

日本神話と親和性が深い神道では、「八百万の神」というものが存在します。
これは特定の人だけでなく、自然や物など万物に神様が宿るという日本独自の考え方です。
この章では、特に自然と関係が深い神様をご紹介します。
自然を司る神様
- ヒノカグツチ
火を司る神様。彼の出産時に、母神であるイザナミは火傷を負って亡くなってしまう。 - ウワツツノオ, ナカツツノオ, ソコツツノオ
水を司る三柱の神々。イザナギが黄泉の国から戻った際に行った禊から生まれた。
また、海の神、航海の神としても信仰されている。 - ワタツミ
海の神。伝承の数が少ないことから、その実態は謎に包まれている。 - カモワケイカヅチ
雷の神。「ワケ」は年齢の若さとも、雷が空を裂く様子を表すという2つの説が存在している。
まとめ:
自然と調和し、人間らしさを感じる日本神話の魅力は奥深い

日本神話では、自然をもとにした神々が多く存在します。
彼らは神道の「八百万の神」として、自然とともに多くの日本人の心の支えとなりました。
また、筆者が感じる日本神話の魅力としては「神々の人間らしさ」を感じる点です。
例えば日本神話の最高神とされる天照大神は、天岩戸伝説を通して完全な存在でないことが描かれています。
ちなみに天照大神はその後、神々と一緒に相談しながら多くの出来事に立ち向かう成長を果たしています。
一神教とは異なる不完全な存在である神々は、どこか私たち人間と重なるところが多いでしょう。
現代でも日本神話とゆかりが深い土地では、神々の息吹を感じる伝承や文化財が受け継がれています。この記事を通して日本神話に興味を持っていただけたら、ぜひゆかりの土地を訪れていただけますと幸いです。















