
水と日本の深い関係性。 清らかな水から生まれる風景や文化

日本は四方を海に囲まれた土地であることから、長年水との関わりが深い生活を送ってきました。
特に、水は自然の要素であることから神道との関連も深いです。
では、具体的に水と日本がどのような深い関係性を築いてきたのでしょうか。
この記事では風景や文化、民俗的な側面から解説していきます。
地理:日本で生まれる水の特徴

まず、地理的な特徴から生まれる日本の水の特徴を見てみましょう。
「滝」と例えられるほど川が急勾配である
日本の国土は、川が急勾配であるという地形的特徴が挙げられます。
なぜ川が急勾配になるかというと、「川の長さが短く源流から河口までの高低差が大きい」からです。
例えば国内最長といわれる信濃川は、川の源流から河口までの高低差がおよそ0.3度といわれています。
一見0.3度というとあまり角度がないように見えますが、実は河川としては急勾配の部類に入ります。
実際に、ヨーロッパで流れるセーヌ川は高低差が約0.03度なので、いかに日本の川が急勾配だと把握できるでしょう。
さらに、日本で一番急勾配な一級河川は富山県を流れる「常願寺川」です。
その勾配はおよそ2.5度といわれています。
あまりの急勾配ぶりに、オランダ人土木技師のヨハニス・デ・レイケが「川ではなく滝」と例えました。
実は保有できる水資源が少ない?
日本は温暖湿潤気候で、特に「梅雨」と呼ばれる時期は雨が多く降ります。
年間の降水量は世界の平均と比べると1.4倍多いといわれています。
降水量が多いということは、国土で保有できる水資源が多いと感じます。
しかし、実は保有できる水資源は限られているようです。
日本の国土は面積が狭く川が急勾配であることから、せっかく降った雨水がすぐに海へ流れてしまいます。
そのため、国民1人あたりが利用できる水資源は世界平均のおよそ1/4といわれています。
豊富な降水量に反して利用できる水資源は少ないですが、だからこそ水を大切にする暮らしが根づいたと考えられますね。
面積が狭く、山に囲まれた島国が軟水を生む
日本の国土は四方が海に囲まれた島国です。
そして、丘陵地や火山地帯を含めた山地は国土全体の3/4を占めるといわれています。
大地に含まれる成分は、花崗岩やそれに由来する砂や泥、それに火山性の岩石で構成されます。
これらの地盤は酸性の特性を持つことから、石灰質と比べるとミネラルが少ないと言われています。
さらに、川が急勾配なことを含めると土に含まれるミネラルを溶かす暇がありません。
そのため、日本ではマグネシウムやカルシウムなどのミネラルが少ない「軟水」が多く生まれます。
特に日本の軟水は、口あたりがまろやかな水が多いといわれています。
ミネラル分が溶け込みにくい日本の軟水は、硬度が低くさっぱりとした味わいを楽しめます。
和食の発展に一役買った日本の軟水

日本の軟水は、和食を生み出すきっかけとなったと考えられます。
その理由は、「軟水特有のミネラルの少なさと、だしを始めとした食材の調理との相性が良かった」からです。
ここでは和食と軟水の関係性をみていきましょう。
① 「だし」と軟水
和食で使われるだしは、主に昆布などの海藻やカツオ節が材料です。
これらに含まれる「グルタミン酸」や「旨味成分」は、材料に浸み込んだ水によって抽出されます。
では、ミネラルが多い硬水を使ってだしを取るとどうなるのでしょうか?
硬水に含まれるカルシウムが昆布のぬめり成分であるアルギン酸と結合し、昆布の表面に皮膜を作ります。
すると、十分にグルタミン酸が抽出されなくなることでだしの旨味が出にくくなってしまいます。
逆に、ミネラルが少ない軟水のほうがグルタミン酸の旨味成分を出すことができます。
日本の軟水は、まさにだし文化を育成するのにうってつけでした。
旨味の成分を出しつつ、最小限の調味料で素材本来の味わいを活かすのは軟水の素地があってこそでしょう。
②「お米」と軟水
日本のお米(ジャポニカ米)を軟水で炊くと、ふっくらとした食感と豊かな甘味に仕上がります。
ふっくら仕上がる秘訣は軟水の特性です。
軟水はお米全体に水分をまんべんなく染み渡らせるので、日本のお米と相性が良いといえるでしょう。
ちなみに硬水でお米を炊くと、パサパサとした食感に仕上がってしまいます。
これは水分中のカルシウムとお米が結合することが原因です。
おいしく仕上げるためには、洗米から軟水を使用することをおすすめします。
お米はまさに和食の中心なので、日本の軟水を使って本来の旨味を引き出していきたいですね。
③「発酵食品」と軟水
納豆やお味噌、醤油、日本酒は発酵食品に分類されます。
これらの発酵食品を作る際、鍵の1つとなるのが「水質」です。
水に含まれるミネラル分や硬度が、発酵に必要な微生物の活性に影響します。
つまり、水質が発酵の度合いやおいしさに大きく関わると考えられます。
特に日本酒や味噌などの製造では、水に含まれる微量元素※が酵母や乳酸菌の増殖の度合いを左右します。
※微量元素:
カルシウム、マグネシウム、カリウムなど
その上で、日本の軟水は発酵食品と相性が良いと考えられます。
ミネラルが少ない軟水は発酵が緩やかになるため、穏やかで風味豊かな発酵食品の味わいを楽しめます。
お味噌や醤油は味を左右する調味料です。
これらの旨味がしっかりと出せれば、お料理も必然とおいしく仕上がるのは必然でしょう。
④「食材」と軟水
お野菜やお豆腐作りには、おいしい水が欠かせません。
特にお寿司で使う「わさび」は、育てる際に清らかな水が不可欠です。
また、食材を茹でる・煮る工程では水を多く使います。
直接・間接的に関わらず、全ての工程で日本の軟水が深く関わっているといえるでしょう。
そして、食後に味わう「お茶」も水が不可欠です。
ミネラル分が少ない軟水を使うことで、お茶本来が持つ旨味や渋みを最大限に引き出せます。
東日本と西日本で若干異なる?

東日本と西日本では、同じ日本でも若干和食の味付けに違いがあります。
特に注目されるのは先述した「だし」です。
有名な話では、「うどんのつけ汁」が挙げられます。
例えば、 西日本で使われるうどんのつけ汁は底が見えるほどの透明な色が特徴です。
繊細なだしを使った味わいは、筆者も初めて食べた時に感動しました。
一方で、東日本は濃口醤油を使ったしっかりとした味付けの文化が特徴です。
そのため、うどんのつけ汁は茶色く色づいています。
なぜ東日本と西日本で若干の味付けの違いが出たのでしょうか?
それは地域ごとで取れる「軟水の性質が若干異なる」のが理由です。
西日本で取れる軟水はよりカルシウムが少なく、特に京都府の市内で採取できる井戸水は超がつくほどの軟水が多いといわれています。
昆布でだしを取る際はミネラルが少ない軟水が適しているため、豊富で旨味が強いだし文化が発達していきました。
一方で、東日本は西日本と比べると若干水の硬度が増します。
そのため、同じ日本でも醤油を使った濃い目の味わいが増えていきました。
東日本と西日本の違いについては
こちらの記事で詳しく解説しています。
あわせてご覧ください。
地域ごとにわずかに異なる水質の違いを活かして、現代でも独自の調理法や食品が受け継がれています。
「水の料理」と例えられた和食
和食は「水の料理」と例えられるほど、水質がおいしさを左右するといわれています。
優しく繊細な和食の味わいを作るには、「水も調味料の一つ」という方もいるほどです。
和食は世界中で人気となり、ユネスコ無形文化遺産にも登録されました。
その立役者となったのは、日本の国土が育てた軟水だと言っても過言ではありません。
逆に、動物の肉を使った西洋料理は、ミネラルを多く含む硬水のほうがおいしく作れるといわれています。
世界の食文化がそれぞれの大地から生まれた水に影響しているのは、とても興味深いですね。
歴史:日本と水との深い関係

地理的な特徴から、日本と水との関係性が見えてきました。
では、長い歴史の中で水が日本の暮らしにどのように関与していたのでしょうか。
それぞれの時代ごとに見ていきましょう。
①古代〜中世:水田を使った稲作が発展

稲作の伝来以降、農業用水としてのため池や小河川の開発が進み、日本独自の社会と文化が形成されました。
古くは川や井戸水が生活用水として使われていましたが、水質や水不足がしばしば問題となっていました。
争いの種となった「水」
水は飲み水だけでなく、食材であるお米を育てるのに不可欠な存在です。
万が一日照りが続いて水が使えなくなったら、村の存続に関わる死活問題となりました。
また、水資源の量は村の発展にも関わります。
そのため、豊富な水は時に村同士の争いや権力闘争の種となったことがありました。
②江戸時代:都市と水道の誕生
江戸(現代の東京)を中心とした都市部で、現代の水道の原型となる施設が整備されます。
徳川家康の時代に造られた「小石川上水」が代表的です。
ここでは木樋や石樋を使った大規模な給水システムが稼働しました。
重罪となった「意図的な水質汚染」
江戸時代では、井戸に毒を投げ込むことは大罪とされました。
生活の生命線である水を汚すのは、町全体の住民を殺すことと同じだからです。
③明治時代以降:より安全で衛生的な水資源の確保へ
明治時代に入ると、都市部でコレラなどの伝染病が大流行します。
これがきっかけとなり、衛生的な水を供給することがが急務となりました。
努力が実り、1887年には、横浜市に日本で最初の近代的上水道が敷設されています。
1950年代〜70年代の高度経済成長期に入ると、急激な人口増加と工業化に対応することが求められました。
これに伴い各地でダムなどの水資源開発が進められています。
工業化が引き起こした環境破壊と反対運動
一方で、急激な工業化とダムの整備は環境破壊が危ぶまれました。
実際に1950年代には河川や海に混じった産業廃棄物(メチル水銀)によって、水俣病が発生してしまいます。
河川や海に放出されたメチル水銀は食物連鎖によって魚へと受け継がれ、それを食べた人々の身体に症状を起こしました。
また、ダムの整備は村ごと水に沈めてしまうことから地元住民の反対運動が起こったといわれています。
民俗:信仰や文化に根づいた日本の水

日本では「八百万の神」として、自然やものに神様が宿ると考えられてきました。
それは「水」にも当てはまります。
実際に日本の各地では、水にまつわる神社が全国に点在します。
ここでは民俗面で、日本と水との関係を見ていきましょう。
①「恩恵」と「畏怖」の二面性を持った水信仰
日本は古来より自然崇拝を行ってきましたが、その中でも特に「水」にまつわる崇拝が多くされています。
その理由としては、水がもたらす「恩恵」と「畏怖」の二面性が挙げられるでしょう。
恩恵:豊かな雨から生まれる稲作文化
日本では古来から水田を使った稲作が主流であり、その手法は現代でも受け継がれています。
また、先述の通り雨が降りやすい気候であることも注目ポイントです。
豊かな雨がもたらす恵みは、多くの人々にとって日々の楽しみと心の拠り所となりました。
また、「水分神」(みくまりのかみ)と呼ばれる水の分配を司る神様がいらっしゃいます。
分水嶺や田の神として、各地で祀られました。
畏怖:災害に対する浄化と厄払い
一方で、時に大雨や日照りがもたらす災害も見過ごせません。
現代のように気象システムが発展していない古来は、災害は命の危険と隣り合わせの生活でした。
大雨がもたらす災害は、水の神である「龍神」が怒った際に起こると考えられています。
安定した降雨と災害に対する浄化と厄払いにつなげるために、龍神を鎮めることが重要とされました。
実際に古代の遺跡からは、水辺で行われた儀礼の跡が数多く発掘されています。
② 水場そのものが崇拝の対象となった

水にまつわる神様は龍神だけではありません。
滝や泉など、水が湧き出る場所そのものが神聖な空間とされてきました。
特に、山の懐から湧き出る水源は「水の聖地」として崇められていたようです。
また、川の急流や海に罪・穢れを流し去る「祓戸大神」(はらえどのおおかみ)の存在も信仰されました。
代表的な祓戸大神としては、「瀬織津姫神」(せおりつひめのかみ)などが挙げられます。
③ 心身と魂を清める水

日本人にとって、水は「魂を清めるもの」という考え方が強く挙げられます。
滝の下に立って水を浴びる「滝行」も、まさに「水で心身を清める」代表的な儀式だといえるでしょう。
滝行をしないと身を清める経験ができないとお考えの方もご安心を。
神社に入る際に手水舎で手と口を水ですすぐ行為も、「水で清める」ことと同じです。
さらに、水で心身を清める行為は神道だけではありません。
飛鳥時代に大陸から入ってきた仏教では、「透明で綺麗な水は汚れを除き病を癒す」として重宝されてきました。
水で魂や心身を清める行為は、現代でも生活や神道の儀礼にも色濃く受け継がれています。
神道についてはこれらの記事で詳しく解説しています。
あわせてご覧ください。
現代の生活における日本の水

古来から水との関わりが深い日本ですが、現代の暮らしには変化があるのでしょうか?
ここでは現代の暮らしと水の関連性に付いて、詳しく解説していきましょう。
水道水が飲める数少ない国
今日における水道の普及率に関しては100%近くにまで達しているといわれています。
その安全性は蛇口から流れるお水をそのまま口にできるほどです。
安全性の高いお水が常に届けられているのは、先人たちの努力と技術者の皆様の尽力のおかげですね。
実は直接水道から水が飲める国は、日本を含めるとおよそ9〜15カ国程度とされています。
(国の数については諸説あり)
ただし、老朽化した水道管にはサビや汚れが水に混ざる可能性があります。
宿泊される際は、「水道水が飲めるかどうか」を事前に確認することをおすすめします。
地域ごとに水道水の味が違う?
ちなみに若干ですが、地域ごとに水道水の味が違います。
筆者の実家がある地域の水道水はおいしいと評判で、遠方から来た親戚が喜ぶほどでした。
実際に筆者も小学校の授業で他の地域の水道水を飲み比べてみましたが、飲み慣れた水道水が一番おいしかったことを覚えています。
昨今の日本は水不足?
ここ数年の日本は雨が少なく、ダムの貯水率も下がっているというニュースが流れます。
中には「節水」を呼びかける市町村も出てきたほどでした。
その貯水率の少なさは、一時水に沈んだ村の様子が見えるほどだったといわれています。
当たり前に使いがちですが、改めて大切に水を使いたいですね。
ことわざや四字熟語でも使われる水

日本語には教訓を例えた「ことわざ」や、漢字四文字で例える「四字熟語」という慣用句があります。
その中でも、水にまつわるものが一定数存在しています。
具体的にどのようなものがあるか見ていきましょう。
ことわざにまつわる水
- 水に流す
過去のトラブルやわだかまりを水に流すように「なかったこと」と捉え、根に持たないようにすること。 - 足を洗う
反省して悪事を辞めること。堅気になって普通の生活に戻ること。 - 雨降って地固まる
喧嘩の後に仲直りをして、より絆が深まること。 - 雨垂れ石を穿つ(あまだれいしをうがつ)
継続していれば実が結ぶこと。
雨粒が1点に落ち続けて、やがて石に穴を開けることに例えられている。 - 覆水盆に返らず(ふくすいぼんにかえらず)
後悔しても過去は戻ってこないこと。
お盆からひっくり返った水は元に戻らないことと重ねられている。 - 水魚の交わり
切り離すのが難しいほど、親密でいること。水と魚の関係にまつわる。 - 水清ければ月宿る
澄んだ水のように清い心と正しい行いを大切にすれば、月が映るように自然と美しいものが集まること。
四字熟語にまつわる水
- 明鏡止水(めいきょうしすい)
1点の曇りと煩悩もない、落ち着き払った澄んだ心もちの様子。 - 我田引水(がでんいんすい)
物事を自分の都合が良いように勝手に進めること。
他人に気遣いなく自分の水田に水を引く様子に例えている。 - 行雲流水(こううんりゅうすい)
流れる雲や水のように、物事に執着せず自然の成り行きのままに生きること。
まとめ:
水との関わりが深く、現代でも生活や文化に根づいている

いかがだったでしょうか。
日本の生活は、水と切り離せない生活が古来から受け継がれてきました。
特に、日本特有の地理的な特徴がなければ和食も生まれなかったと考えると感慨深いものがありますね。
おいしくて美しい日本の水ですが、現代では自然を守りながら安定した水資源を確保することが課題となっています。
私たち日本に暮らす・訪れる人々が水資源を守ることで、次世代にも日本の清らかな水と文化をつなげていけるでしょう。
筆者も改めて、日々の生活から水を大切に使うことを心がけていきたいです。















