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「SHOGUN 将軍」のコンテンツ作成の秘訣を探って見たら、 世界中の人々を魅了した理由が見えてきた

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前回の記事では「SHOGUN 将軍」について、史実との違いを比較しながら解説しました。

この記事では、なぜ「SHOGUN 将軍」が世界中の人々を魅了したのか。
その理由を様々な視点から紐解いていきましょう。

従来の作劇から見た日本

今回「SHOGUN 将軍」を制作したハリウッドでは、以前から日本を舞台にした時代劇に度々挑戦してきました。
しかし、ここまで世界中の人々を魅了したのは、「SHOGUN 将軍」が初めてだったといわれています。

その理由は、いわゆる「西洋の人々から見た、ステレオタイプの日本の表現が多かった」ためです。
しかし、日本人から見ると違和感が強い表現であることが課題となりました。

この課題への取り組みは、今回の「SHOGUN 将軍」の制作まで向き合い続けます。

ちなみに、原作小説を共有するSHOGUNそのものは、1980年にも映像化されました。
こちらの作品もステレオタイプの表現が多かったようです。

さらに、主軸が戦国時代でなく、「イギリス人の航海士に焦点を当てている」のも課題であると評価されていました。

西洋の人々を魅了したジパングとジャポニズム

西洋の人々が考える「日本らしさ」とはどのようなものでしょうか。
これを考えるヒントとして、「ジパング」と「ジャポニズム」が挙げられます。

① ジパング

マルコ・ポーロが「東方見聞録」に記した日本を表す言葉です。
そこでは、「ジパング(日本)は莫大な金が算出される島国」と紹介されました。
これをもとに、日本は「黄金の国」の異名で憧れられるようになります。

なお、「ジパング」の語源は、当時中国語で日本を意味する「ジッポン」「ジーベン」が転じたという説があります。

さらに、現代日本を表す英語である「ジャパン:Japan」は「ジパング」を語源として関連づけられるようになりました。

② ジャポニズム

19世紀後半に欧米で起こった日本趣味、および日本の芸術に影響された芸術運動を指します。
陶磁器、着物などの美術工芸品が欧米に輸出・紹介され、多くの人々が日本の様式美に魅了されました。

とりわけ衝撃を与えたのは、「浮世絵」です。

当時の西洋美術は遠近法・陰影法を活用した描写が特徴です。
見たままの光景を科学的に表現する」ことが美徳とされました。

その中で、浮世絵の描写は当時の芸術家に衝撃を与えます。
大胆な構図画面の切り取り方平面的な着彩強い輪郭線の表現は、印象派をはじめとした表現へと取り入れられました。

また、モネやゴッホも着物や浮世絵を作品のモチーフに組み込んでいます。

クロード・モネ《ラ・ジャポネーズ》
見返り美人の構図や着物、団扇・扇子など日本の文化がふんだんに詰まった作品。
よく見ると団扇の絵柄が浮世絵になっているのも面白い。
出典:Artvee

当時日本は鎖国政策を行っていました。
しかし、ペリーの黒船来航をきっかけに、諸外国へと開国を行います。

開国がなければ、ジャポニズムの流行や印象派の台頭、ゴッホやモネの活躍もなかったかもしれません。

開国と幕末の日本については、こちらの記事もご覧ください。

「正しい日本の姿」をどのように表現するか

上述の通り、いかにして「日本人が見ても違和感がない日本らしさ」を表現するか。
ハリウッドは兼ねてから抱えてきた課題を解決すべく模索を続けました。

そして、「SHOGUN 将軍」の制作で転機が訪れます。
その手法は「主演・プロデューサーを努める真田広之氏と対話を重ねる」ことでした。

総指揮のジャスティン・マーク氏は真田氏と以下のやり取りを行っていきます。

2人が行った対話の内容

① マーク氏が「ハリウッドが日本を表現するとき、どのような間違いを犯してきたか」について、真田氏に質問する。

② ①に対して、真田氏が回答する。

回答にあたり真田氏は「誤解された日本を描くのを終わりにし、『オーセンティック』にこだわる」べくやり取りを重ねたと振り返りました。

オーセンティック(authentic):「正真正銘」「本物」を表す英語。

郷に入れば郷に従え」「百聞は一見にしかず」という、日本のことわざがあります。
今回の対話に当てはまるので、それぞれ意味を見ていきましょう。

郷に入れば郷に従え:ある土地に入ったら、その土地の風習に従うこと。

百聞は一見にしかず:100回話を聞くよりも、実際に1回その物事を見ることを勧めること。
そのほうが理解が早く、また深まりやすいため。

残念ながら戦国時代の様子を現代の日本で「1回見る」ことは不可能です。
しかし、主演の真田氏と対話を重ねたことは、日本文化のリアルを知ることにつながったのではないでしょうか。

「SHOGUN 将軍」が人々を魅了した理由

上述の対話に加えて、世界中の人々を虜にした要素は多いです。
ここではその魅力を、筆者の考察を交えながら解説します。

西洋から見た「ジャポニズム」と史実のバランスが秀逸

華やかな衣装や臨場感溢れる戦場のアクションは見どころの1つです。
ただし、いわゆる「テンプレートな日本文化」「ジャポニズムからくる先入観」は、劇中では見受けられません。

例えば、城にいる人々の様子ですが、従来なら人件費と画面の賑やかしのために農民役も入れていました。
しかし、本来なら農民は城に入れないため、城のシーンでは農民を映さないよう依頼をしたそうです。

さらに、第6話の能のパフォーマンスも日本文化が表現された見どころです。
この演技では、能楽者が日本から実際に使われている衣装を着用しながら行ったと言われています。
まるで、実際に舞台を鑑賞したかのようなクオリティの高さで、日本人が見てもうっとりするほどでした。

史実のバランスを鑑みながら、海外の人に刺さる「日本らしさ」を両立したバランスは秀逸でしょう。

日本文化を教えた手法も深い

撮影には日本人および日本にルーツを持つ人々だけでなく、現地のスタッフもいました。
そこで、以下の手法を徹底したようです。

  • 日本文化や歴史をまとめた、約900ページのマニュアルを配布
  • 雑兵の被り物を首でなく、顎で留めるよう徹底
  • わらじの履き方の練習を行う
  • 槍の持ち方を右手にするよう統一(左利きの人は当時の日本ではいないため)
  • 撮影のケータリングには日本食を用意

また、衣装も日本で生産された生地を使用し、家紋の位置も着用時正しい位置に来るよう、衣装デザイナーのカルロス・ロザリオ氏と緻密な打ち合わせを重ねました。

この功績により、「SHOGUN 将軍」はエミー賞の衣装デザイン賞を受賞しています。

プロフェッショナルとしての意識の高さ

主演の真田氏は、徹底して「日本人が見てもおかしくない日本」を表現することにこだわりました。
自らの演技をしながらプロデュース業も兼任した彼の活躍ぶりは以下の通りです。

  • ただ自らの演技をするだけでなく、衣装やセット、小道具を隅々まで念入りにチェック
  • 製作元のハリウッドとは史実や実際の日本の様子を伝え、演出のバランスを緻密に打ち合わせを重ねる
  • 共演の俳優たちへ殺陣や振る舞いを指導
  • エキストラの様子や演技を確認
  • これらをこなした後に衣装に着替え、自らの演技をこなす

共演者からは深い尊敬を受け、また「中途半端な演技はできない」と気を引き締めたと話しています。
このプロフェッショナルの意識は、もはや「職人」の域に達しているでしょう。

ちなみに、小道具や舞台美術のスタッフも日本人が数多く起用されました。
撮影セットの畳も土足厳禁と、実際の使い方も徹底していたようです。

日本文化を肌で知り、取り扱いができるためという理由ですが、裏方のスタッフまで日本にルーツのある人々を揃える徹底ぶりに胸が打たれます。

あえて「英語」をメインに話さない

従来のハリウッドで日本人役者を採用する際は、「英語を話しながら演技ができるか」という点で選出していました。

一方、今回の「SHOGUN 将軍」では原則英語を離さず、日本語のまま演技をする手法を採用しています。(70%以上が日本語での構成。英語字幕の機能もあり)

そのため、より演技力があり、役に適した俳優陣を揃えることができました。

特に主演の真田氏は時代劇の名作を数多く生み出した「東映太秦映画村」「東映京都撮影所」(ともに京都府)がキャリアの原点です。
10代の頃から時代劇に数多く出演したことも、彼の日本の時代劇の知見を深めたといえるでしょう。

人間と人生の本質を突いた、重厚な人間関係

 「SHOGUN 将軍」では虎永の策略から鞠子と按針の絆など、様々な人間関係が劇中で交差しています。
その中で、特に人間と人生の本質を深く突いた要素を2点ご紹介しましょう。

主君に対する忠義と、仲間との礼(武士道)

仲間との絆を大切にし、大切なものを守るために躊躇なく自らの命を投げ出す。
とりわけ苦難の道を歩みながらも、手を取り合いながら悲願へ突き進む姿は現代の私たちに刺さる点が多いです。

主要な登場人物が劇中で壮絶な最期を遂げる

物語をただ「ハッピーエンド」で終わらせない。
その作劇は、私たちの人生における挫折や苦い経験と重なります。
人生と重なる表現に深い共感を覚えた方もいるのではないでしょうか。

「名作の条件」とは

 「SHOGUN 将軍」以外にも、いわゆる「名作」「長く人々に愛されるヒット作」の共通点とは何でしょうか?
その答えの1つを、かつて筆者がデザインを学んだ際に教官から教わりました。

共通点は「人間の本質をいかに突いているか」です。

例えば、日本の国民的アニメである「アンパンマン」や「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」は愛と友情、勇気や正義を真摯に描写しています。

また、1995年に放映され社会現象となった「新世紀エヴァンゲリオン」は人間、特に10代の少年少女の心の闇や葛藤を真っ向から向き合い、まっすぐ丁寧に表現しました。

「SHOGUN 将軍」のヒットも上述の「日本らしさ」を丁寧に書いたことが背景にあります。

さらに、物語的な側面としては「人間・人生の本質」と「先祖が命を賭して築き、後世へと繋げてくれた平和な世と武士道の理念」が、多くの人を感動させた要素となったのではないか。
そう筆者は考えます。

まとめ:
「SHOGUN 将軍」は日本と海外の映像技術が融合した至宝のドラマだった

エミー賞受賞時に、真田氏はこのように語りました。

今回の作品は東(東洋)と西(西洋)が壁を超えて互いを尊重する夢のようなプロジェクトだった。
世界と本当に通じ合う日本の時代劇を作り、嬉しく思う。

私たち日本人も、時に海外の方々に対してステレオタイプを無意識に抱きがちです。

実は筆者も大学時代ある西洋の国に行った際、現地の学生に対して「納豆は苦手?」と聞いたことがありました。
しかし、彼らは苦笑しながら「納豆は好きだし、美味しいと思うよ」と話してくれた経験があります。

自分自身の中に、西洋の人は納豆は苦手とプロトタイプを抱えていたことを実感した出来事でした。

この世界に住む私たちは、国ごとに文化や言語、価値観の違いがあります。
その中で、「相手を知りたい」という気持ちで対話を試みることが何より重要なことではないか。

「SHOGUN 将軍」の物語を通して、改めて異文化理解の手法と大切さを学んだように感じます。

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