
なぜ奈良には鹿が多いの?その背景には驚きの理由があった
私たちの会社の所在地がある京都府から電車で45分ほど離れている奈良県。
794年に京都へ首都が移るまでは、奈良県が政治・文化の中心だった時期がありました。
その背景から、京都と同じく寺社や仏閣など日本の重要文化財が多く残る奈良県ですが、見どころがもう1つあります。

それは「奈良公園に住む鹿」です。
2022年時点でおよそ1,200頭が暮らしていると言われています。
上野動物園(東京都)のパンダや美ら海水族館(沖縄県)のジンベエザメなど、動物園や水族館の見どころとして取り上げられる動物は日本で一定数いるものの、公園周辺で檻に囲まれず自由に過ごす奈良公園の鹿は珍しい光景です。
なぜ奈良に鹿が多く住んでいるのか。その理由を解説していきましょう。
奈良に鹿が多くいる理由

奈良と鹿の関係は今から約1300年前の奈良時代から始まります。
それは「春日大社」(かすがたいしゃ)が藤原氏の手によって作られたことがきっかけでした。
藤原氏は当時政治で重要な影響力を持っていました。
そのため、当時の都であった「平城京」(へいじょうきょう)の守護と繁栄を願い春日大社を作ったのです。
春日大社には4名の神様が祀られています。
そのうち1名は「武甕槌命」(たけみかづちのみこと)です。
武甕槌命
武勇や勝利にまつわり、出雲(現在の島根県)で日本の国作りに関わった神様です。
また、藤原氏の「氏神」(うじがみ:一族または土地の守護神。)でもありました。
鹿島神宮(茨城県)から勧誘されたと言われています。
武甕槌命が鹿島神宮から移動される際に、白い鹿に乗って来られたという伝説があります。
そのため、鹿は「神の遣い」として信じられ、人々の手によって手厚く保護されてきました。
春日大社とは?

全国に約3,000社ある春日神社の総本社(そうほんしゃ)です。
1998年に「古都奈良の文化財のひとつ」として、ユネスコの世界遺産に登録されました。
総本社(そうほんしゃ):神が宿る大元の神社のこと。
全国に散らばる分社(本項では春日神社)は大元の神社から神が分霊として宿されます。
そのため、お正月の初詣では総本社にお参りに向かうことが縁起が良いとされています。
奈良にいる鹿の特徴
日本には「ニホンジカ」という種類の鹿が各地に生息しています。
なので、日本にとって鹿の存在自体は珍しいものではありません。

奈良の鹿は以下の理由から、ニホンジカとはまた異なる側面を持ち合わせています。
① 神の遣いとしての役割
前述の伝説から神の遣いとして信じられ、長年にわたり人々から保護されてきました。
② 日本の「天然記念物」である
1957年に「奈良のシカ」として国の天然記念物に指定されています。
③ 古来独自の遺伝子を持つことが発覚
ニホンジカとは異なる遺伝子型を持つことが、福島大学などの遺伝子研究結果から明らかになりました。
奈良公園にいる鹿の飼い主は誰?
公園に放し飼いのようにされているため飼い主の所在が気になる鹿ですが、実は全て野生の鹿です。
ただし、天然記念物として保護されていることから、野生と比べると穏やかな生活を送っています。

普段は奈良公園周辺にある芝やススキ、イネ科の植物やどんぐりなどを食べて暮らしています。
日の出とともに「採食場」へ移動し、夜になると「泊まり場」へ戻って休む生活をしています。
頭数の割合はメスがオスよりも約3倍多いです。
また、例年の出生(または死亡)数は200〜300頭といわれています。
妊娠・出産する鹿の居場所

毎年春に妊娠した鹿が春日大社内の「鹿苑」(ろくえん)と呼ばれる施設に保護されます。
生まれた小鹿は母鹿とともに行動できる時点まで成長できれば、奈良公園に放たれます。
その時期は毎年7月頃であり、前月の6月には鹿苑から親子の鹿を観察することが可能です。
自然界ではなかなか見られない貴重な光景のため、この時期には多くのファンが赤ちゃんを一目見ようと奈良に集まります。
鹿と触れ合う際に気をつけること

動物園や水族館、野生生物とは異なる奈良公園の鹿たち。
しかし、天然記念物として保護されている点から接し方には十分気をつける必要があります。
ここでは奈良公園で鹿を見る際に気をつけたいポイントをまとめました。
触ったりいきなり近づくのはNG
奈良公園の鹿は天然記念物として保護されています。
突然触ったりいきなり近づいて驚かすことのないよう注意しましょう。
奈良公園の鹿は人慣れしているため彼らから先に近づいてくる場合もありますが、その際も身体や角に触るのはNGです。
秋は特に要注意
秋の雄鹿は気性が荒いため、不用意に近づくとケガや事故につながり大変危険です。
奈良県では2019年に鹿関連で192件の事故が発生し、鹿に噛みつかれたり蹴られる被害がある報告を発表しました。
また、被害は日本人よりも外国人観光客の方が多いとの事例をあわせて報告しています。
かわいいからとつい近づいて撫でたり触ったりしたくなる気持ちは分かりますが、鹿だけでなく私たちの安全のためにも「触ってはいけないルールがある」ということを把握していただければと思います。
人の食べ物は与えない
人間の食べ物は鹿にとっては害のある成分が入っている場合がありますので、絶対に与えないでください。
ただし、奈良公園の売店で売られている「鹿せんべい」は鹿にとって身体に害のない素材でできています。
そのため、そちらは与えても問題ありません。
鹿せんべいとは

奈良公園で売られている鹿せんべい。米ぬかと小麦粉でできている。砂糖は不使用。
1セット10枚で200円で販売され、収益の一部は鹿の保護に使われている。
売店だけでなく、公園内にある自動販売機でも購入可能。
人間が鹿せんべいを食べても害はありませんが、飲み込みにくく後味が悪いと言われています。
保存料がなく消費期限も設定されていないため、味見せず鹿に与えることをおすすめします…!
鹿せんべいを与える際は焦らさず、手に取ったら近くにいる鹿に速やかにあげましょう。
最後に、全ての鹿せんべいを渡し終えたら手のひらを鹿に見せます。
これで「もう持っていない」ことを鹿にアピールできますので、忘れずに行いましょう。
複数名で鹿せんべいを渡す際は事前に分け合っておこう
これも筆者個人が中学の修学旅行で経験した事例です。
もし複数名で鹿せんべいをあげる際は、購入後速やかに分け合うことをおすすめします…!
その理由は、鹿せんべいを持っている人間を鹿たちが見つけた際一斉に集まってきてもみくちゃにされる場合があるからです。

筆者の時は前だけでなく横も鹿に囲まれ身動きが取れなくなりました。
もみくちゃにされている最中に、友人から自分もあげたいと鹿せんべいをねだられた時がありました。
しかし、身動きが取れず渡す余裕が全くありません。
やむを得ず、「鹿せんべいの束から自分で取ってくれ」と叫びながら何とか友人に渡しました…!
もみくちゃにされると鹿も人間もケガをする恐れがあります。
なので、鹿と私たち人間の安全のためにもぜひこの点を心がけてくれると嬉しいです。
衣服や持ち物を噛まれないよう注意
鹿せんべいをあげる際、衣服(特にスカート)や私物を噛まれたという声もありました。
実際に、筆者も中学の修学旅行で鹿せんべいをあげた時に制服のスカートをくわえられそうになったこともあります…。
(スカートが被害に遭う前に鹿せんべいを渡せたことが不幸中の幸いでした。)
また、修学旅行や観光で使うしおりやパンフレットを食べられると、鹿の健康にとっても悪影響です。
衣服や私物を噛まれないように注意し、小さいお子様は保護者の方と一緒に鹿せんべいを渡すよう心がけましょう。
まとめ:
奈良の鹿は生き物であり、また神の遣いでもある

奈良公園に生息する鹿はその愛らしさから国内外の人々に多く愛されています。
その一方で、残念ながら2021年には暴行を受けた鹿が亡くなり、文化財保護法違反で逮捕される事態に発展した出来事もありました。
奈良の鹿は天然記念物のため、傷つけたり命を奪うと法律で罰せられる可能性があります。
しかし、大前提として鹿は私たちと同じ生き物です。また文化的には神の遣いの役割も持っています。
神様の遣いを傷つけたら罰当たりですし、いきなり知らない人から急に触られたり叩かれたりしたら良い気分には決してなりませんよね。
これからも長く鹿と一緒に暮らしていくためにも、皆さんが奈良で鹿を見た際は思いやりの気持ちを持って接していただけると嬉しいです。













