( PRODUCT )
- 己を知り、人生に覚悟を。
- 『武士道というは死ぬことと見つけたり』
江戸時代の書物「葉隠」に記された、有名な一説。
ただ生き長らえて命を全うするのではなく、
主君のために死ぬことさえも覚悟せねばならない、武士としての精神、人生の道を説いている。
( KEYWORDS )
( TAG )
+


五感を刺激する要素として、私たちの生活に欠かせない香り。
リラックス効果から食欲をそそるものまで、その種類は多岐に渡ります。
日本文化と香りは密接なつながりがあり、時代によっては「教養」や「その人の魅力」として表現されることがありました。
今回は香りと関わりが深い「お香」に焦点を当てて、解説していきたいと思います。
日本で使われている「お香」は、主に天然由来の成分から作られています。
代表的なものは以下3点の香木です。
甘く濃厚ながらも、渋み、苦みが絶妙なバランスで混ざり合う唯一無二の香りです。
ウッディー系の香りとも評され、高貴で優雅な印象を与えます。
人間が感じる「五味」を全て兼ね備えていますが、人気・希少価値が年々上がっているのが現状です。
一言で言い表せない独特かつ芳醇な香りが魅力です。
「熟成されたワイン」「濃厚なバニラ」「清涼感がある」と表現することがあります。
また、人によっては「スパイスが効いた料理の香り」「寺院の神聖な香り」と感じることも。
ほのかな甘味と清涼感、深みを感じる上品な香りです。
香水の「サンダルウッド」と同じ香りなので、かいだこともある方も多いのではないでしょうか。
「和の香り」の代表格として、多くの工芸品で採用されています。
また、これ以外にも漢方やスパイスを主原料として採用することもあります。
先述した主原料を粉末にした後固めます。基本的には粉末のみを使いますが、種類によっては液体を混ぜる場合もあるようです。
形は線香のような細いスティック状から円錐型まで様々。
基本的に加熱して使い、その煙から出る香りを楽しむのが最大の特徴です。

「香りを楽しむ」「植物から作られる」という点ではアロマとお香は似ています。
しかし、実はお香とアロマには細かな違いがあるのはご存知でしたか?
ここで詳しく違いを見ていきましょう。
お香は主に固形の香木や漢方、スパイスを使用します。
一方で、アロマは花や木などの植物から香りの成分を液体にして抽出しているのが特徴です。
アロマで使われる花の香りは主にラベンダーやローズ(バラ)、ゼラニウムが採用されます。
お香は基本加熱して香りを出します。
煙が出るタイプが主流ですが、香木を温めたり袋に入れて持ち歩く手法もあります。
しかし、アロマは常温のままでも使うのが主流です。
そのため「加熱の有無」という点は大きな違いでしょう。
先ほどの加熱の有無に加えて、お香とアロマの最大の違いは「香りの種類」です。
香水の紹介で「トップノート」「ミドルノート」などという言葉を聞いたことはあるでしょうか?
これは香りの重さを指す言葉で、時間の経過ごとに香りも変化していきます。
アロマは香りが軽い順に「トップノート」「ミドルノート」「ベースノート」の3種類で構成されます。
さらにお香のみ「ボトムノート」という、ベースノートよりも重い香りが加わります。
お香だけ「ベースノート」が加わるのは、加熱しないと「ベースノート」の香りが出せないためです。
木質分が多いお香は加熱しないと本来の香りを出すことができません。
加熱の使い方に伴うボトムノートの発現。
この点がアロマとの最大の違いと言っても過言ではないでしょう。

お香は時代とともに受け継がれつつも、日本文化で様々な役割を果たしてきました。
ここではお香が果たした役割をご紹介します。
お香について記述が確認されたのは、720年に成立した「日本書紀」です。
日本初の歴史書である本書では、淡路島に漂着した沈香を聖徳太子が確認したとされています。
文化としては6世紀頃(飛鳥時代)の仏教伝来とともに、白檀や沈香を焚く「供香」から始まりました。
仏教でいう「供香」とは、「お香を焚くことで仏様や故人に祈りを捧げる」ことを指します。
供香ではお香だけでなく、お線香が使われる場合もあるようです。
この行為はいくつかの意味を持つので、以下で確認していきましょう。
仏様, 法(教え), お坊様に香りをお供えします。
仏教では、亡くなった方は香りを食事にすると考えられ、この食事を「香食」と呼びます。
そのため、お線香をあげることで故人へ食事をお渡しすることも供香の重要な役割です。
香りを通して邪気を祓い、良い香りで空間や人を清めます。
加えて、良い香りが漂う空間で仏様をお迎えすることが大切だと考えられました。

平安時代ではお香の香りを衣服にまとわりつけ、残り香を含めて嗜む文化が生まれました。
服装や和歌のセンスだけでなく、お香の香りも本人の教養や美意識として重要視されたのです。
この頃には複数の香りを重ね合わせた「練香」も登場します。
源氏物語でもお香の話が随所に登場しますが、その中でも香りの表現が顕著なのが「薫」と「匂宮」2人の描写でしょう。
薫は主人公光源氏の息子(実際の父親は別)、匂宮は光源氏の孫に当たる登場人物です。
2人は兄弟同然に育てられましたが、匂宮は薫をライバル視していました。
そんな薫は生まれつき良い香りの体臭を持っているのが特徴です。
その香りは芳しく、良い香りが周囲に漂うと彼の居場所がわかるほどでした。
一方の匂宮は、様々なお香を服に焚き染めて薫に対抗しようとします。
日本語で「薫」は自然と良い香りが周囲に漂うこと、「匂」は人為的に香りを出すことをいいます。
さらに、「薫」は基本良い香りのみですが、「匂」は良い香りだけでなく嫌な香りを表現する際にも使います。
この対比と2人の特徴をさりげなく出すのが、作者紫式部の鋭い感性が光るポイントでしょう。
『源氏物語』の解説については、こちらの記事も併せてご覧ください。
武士の世が始まると、香木そのものの香りを楽しむ「聞香」が生まれました。
また、芸道としての「香道」が確立します。
香道は華道や茶道と並び、芸道として独自の文化を作り上げていきました。
作法に則って香木を焚き、その香りを楽しむ伝統芸道です。
香りを鑑賞する際は「嗅ぐ」ではなく「聞く」と表現します。
前述の「聞香」や、「組香」と呼ばれる香りから文学や詩歌の主題を聞き分ける手法が特徴です。
そして、同時期に入ってきた禅宗と重なり、香りを通して自らと向き合うこと時間にもあてられます。
末尾の「道」は「自然法則を学び、自らと向き合いながら礼節をもって謙虚に自己を磨き続ける」という意味を持ちます。
これは武士道や神道、剣道などにも共通している考え方ですね。
戦国時代まではお香は高級品で、持つことは一種のステータスとされていました。
江戸時代に入ると一般市民にもお香が広まったことで、先述した「組香」の遊びが生まれたと言われています。

このように文化的な側面が目立つお香ですが、武士とも密接な関係があったのはご存知でしょうか?
文化と武芸がどのように関わってきたのか、この段落でご紹介します。
お香の効能として、香りによるリラックス効果があります。
戦の前に昂った精神をお香の香りで落ち着かせることで、最大限の力が出せると考えられました。
その際、よく使われたのは「沈香」だったようです。
また、戦ではいつ命を落とすかわかりません。
そのため、死を覚悟した際は身だしなみとして髪や甲冑にお香を焚いて戦に臨んでいました。
沈香や白檀には防虫、殺菌(抗菌)効果があります。
そのため、戦に出る前に虫刺され防止も兼ねてお香を使っていたと考えられるでしょう。
さらに、お香の煙はカビ対策にも活用できます。
お香はアルカリ性なので、酸性のカビを抑制、防止できる効果があるのです。
甲冑は攻撃から命を守り、また貴重なアイテムです。
仏様の加護へのお礼も兼ねて、お香で丁寧にメンテナンスもしていたのではないかと筆者は考えます。
「蘭奢待」という門外不出かつ最高級のお香があります。
これは日本一のお香とされ、天皇が武士(貴族)の功績を讃えて与えたものでした。
武士として蘭奢待を賜ったのは足利義政(室町幕府8代将軍)、織田信長、徳川家康の3名だったと言われています。
名誉の品が金銀財宝だけでなく、「お香」も加わっていた点は非常に趣があるお話ですよね。

このように、お香は日本文化とも密接な関わりがあります。
その歴史を紐解くと、文学や武士の戦い、名誉の品など多岐にわたる役割を担っていたといえるでしょう。
お香を使う際は、ぜひ日本文化と歴史に思いを馳せていただけると嬉しいです。